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「すまない。俺が何者であるか、落ち着いたらきちんと話すつもりだったんだ。貴女もまた、震災で亡くなった姉君に代わって望まれたから、これ以上混乱させてはいけないと思って」
「でも、それならばはじめから言ってくだされば……」
音寧の言葉を遮って、有弦は弱々しく呟く。
「まっさらな状態で……俺に恋して欲しかったんだ」
少年のようなあどけない表情を見せた有弦を前に、音寧は目を見開く。
異母兄の傑が婚約者を自ら選び、互いに愛し合った姿を見ていた資……有弦にとって、花嫁は政略結婚の道具ではなかった。ともに生きていくために必要な、かけがえのない唯一の存在……彼はそのように考えていたのだ。
しかし、理想の結婚を目前としていた傑と綾音が、震災によって死んでしまった現実は残された有弦をひどく虚しい気持ちにさせた。
そんななか、彼に希望を抱かせてくれたのが、音寧……時宮の双子令嬢と呼ばれていたもうひとりの娘だ。
「おとね。大正十二年の夏に、貴女は帝都に来ていましたよね……?」
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