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「迎えに来たよ、我が花嫁どの」
静岡で暮らしていた桂木音寧のもとに帝都から来たという軍服姿の屈強な男性が現れたのは、秋冬番茶の収穫次期に重なる大正十三年神無月のことだった。
鮮やかな黄緑色の茶の葉が茂る段々畑で作業していた音寧は、養母に呼び出され、長身の彼の前へと顔を出す。
西から照らされた太陽のひかりに当たった彼の栗色の髪は金髪のようで、まるで異国の王子様が絵本の世界を飛び出して来たのではないかと心配してしまったほど美しかった。
だが、茶摘着物を着ている音寧を見下ろす榛色の瞳もまた、驚きでまるくなっていた。
「……なるほど、綾音嬢に瓜二つだな」
「姉のことを、ご存知で……?」
「まぁ……このたびは、ご愁傷様なことで」
「今更なことでございます。あれから一年以上経っておりますのに……それに、わたしはすでに彼女と縁を分かたれた身」
「だが、貴女が時宮家の姫君だったことは事実だろう?」
「……わたしは姫などでは」
「謙遜する必要はない。調べはついている。貴女がかつて時宮の双子令嬢と呼ばれ」
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