1-14. 冬薔薇が散るその前に

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 一度で満足したはずなのに、音寧の反応が可愛すぎてつい手を出してしまった有弦は、結局いつものように彼女が意識を失い泥のように眠ってしまうまで抱いてしまった。朝になったら一緒に庭に出て四阿で落としたであろう大切な鏡を拾いに行こうと言っていたのに、時計を見ればもう、正午近い。 「おとね?」 「……あやねえさま、どうして、死んでしまったの……?」  すうすう寝息を立てていた音寧の泣きそうな声に、有弦は硬直する。寝言か。焦る有弦に気づくこともなく、彼女は弱々しく言葉を吐き出す。 「わたしが無能、だから」  悪い夢でも見ているのか、顔色も良くない。それよりも、彼女がぽろりと零した一言に、有弦は何も言えなくなる。 「わたしみたいな無能……いらないんでしょ……?」  ――どうせわたしも双子の姉の身代わりでしかないのですから。  そう言って自分を蔑んだ音寧。けれど、その苦悩は双子の姉の身代わりという理由だけではなかったのだと、有弦は今になって悟ってしまう。
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