1-14. 冬薔薇が散るその前に

4/12
前へ
/608ページ
次へ
 時宮の一族には「時を味方につける」異能、通称「破魔」と呼ばれるちからがある。双子令嬢の姉である綾音が傑をそのちからで救ったという不思議な逸話は岩波の人間にも知れ渡っている。けれど対する妹は、三代目が案じた通り、弱かったのだ。  寝言で無能だと繰り返す音寧の唇を自分のそれで封じて、慰撫するように舌で歯列をなぞれば、薄目をひらいた妻が「!?」と驚いて有弦から顔を背けようとする。させるものかと顎を手で固定して更に舌の動きを活発にすれば、あえなく音寧が空気を求めて喘ぎながら覚醒する。 「っはぁ……有弦さまっ!」  朝からなんて破廉恥なことを、と頬を咲きはじめの鬱金花(チューリップ)のように赤らめた音寧を前に、有弦が駄目押しの接吻を加えてホッとした表情を見せる。 「よかった、目が覚めた」 「……な、なんですか? 何が」 「おはよう、おとね。もうお昼近いのだが」 「えっ! いやだ、どうして起こしてくださらなかったのですか」 「愛する妻の寝顔を見つめていたかったからだが?」 「で、でも見つめている時間が長すぎますっ!」 「だから口づけで起こしてあげたじゃないか。西洋のお伽噺のように」
/608ページ

最初のコメントを投稿しよう!

253人が本棚に入れています
本棚に追加