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「いい加減になさってください。わたしはもはや時宮の家に棄てられた娘です、今更あの家と縁を持つつもりもございませぬ」
男の言葉を遮り、不躾に睨みつける音寧を見て、彼は申し訳なさそうに髪をかく。
「嫌な事を思い出させてしまったのなら謝る。俺は岩波た……有弦だ。有弦と呼べ」
「ゆうげん、さま?」
「そうだ。お茶の『岩波山』の岩波といえばわかっていただけるか」
「……ええ、岩波山茶園には桂木の人間もお世話になっております。そういえば、そちらのご主人の名前が代々『有弦』だったかと」
「そこまで知っているのならば、話は早い。この度、岩波有弦が花嫁を迎えることになってな」
「あら、それはおめでとうございます!」
それでは目の前にいる漢前な方は、結婚間近ということなのだろう。
音寧は目をまるくして有弦の言葉を待つ。
「……おめでたい、だと?」
「ええ。迎えに来たとおっしゃるのは、桂木本家のサチお嬢様のことでしょう?」
音寧が言い放てば、有弦は「誰だそれは」と困ったような表情を浮かべている。
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