1-14. 冬薔薇が散るその前に

5/12
前へ
/608ページ
次へ
「――破廉恥ですっ」  すでに朝も昼も夜も子作りで抱かれているというのに、寝起きの接吻は破廉恥なのか、と釈然としない有弦だったが、ぷりぷり怒る妻の姿も可愛いのでついそのまま愛でてしまう。青白かった顔色も、接吻をしたからか血色が良くなっている。このまま接吻をつづけたら更に顔が真っ赤になりそうだ。 「なんて、な。魘されていたみたいだから起こしたのだが」 「魘されていた? わたしがですか?」 「覚えていないのか? あまりにも自分のことを虐めているから、その悪い口を塞いでしまったのだが」 「……姉が死んだと報された夢かもしれません。それか、震災の夜の……鏡!」  ハッと寝台から跳ね起きて音寧は有弦に言い募る。双子の姉が遺した鏡を邸の庭に落としてしまったから、朝になったら一緒に拾いに行こうって…… 「わかっているよ。遅い朝食を食べたら一緒に拾いに行こう」 「あ、あと! 有弦さまと手をつないで一緒にお庭を散歩したい……です!」  勢いよく提案する妻をぎゅっと抱きしめて、有弦は舞い上がる気持ちを隠さず嬉しそうに応じる。 「なんて可愛いおねがいなんだ。喜んで叶えてあげるよ……愛しいひと」
/608ページ

最初のコメントを投稿しよう!

253人が本棚に入れています
本棚に追加