1-14. 冬薔薇が散るその前に

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   * * *  敷地内だからめかしこむ必要はないと下着を着ることは許されなかったが、有弦が用意してくれた前開きの小花模様のワンピースに多嘉子が譲ってくれた白いコートを羽織って、音寧は黒いブーツで庭先に躍り出た。有弦も木綿のシャツに藍色のズボンという休日らしいゆったりとした恰好をしている。  当たり前のことのように手をつないで、夫婦として庭園を歩くことに浮かれていた音寧は、履くことを許されなかった下着のことなどすぐに忘れてしまった。はじめのうちはスカートのなかがすうすうするとか、ワンピースのボタンの縫い目が乳首に擦れてへんな感じがするとか思っていたのに、現金なものである。  それに。いまはまだ邸の敷地内しか行動を許されていないけれど、太陽のひかりを浴びながら外の空気を吸うのは、裸に近い夜着一枚の状態で部屋のなかに閉じ込められていることに比べたら、とても健康的だと音寧は痛感していた。 「……もう、春なのですね」 「そうだな」
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