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その先には形見の鏡を落としたであろう白木の西洋風四阿の姿も確認できる。周囲に咲いている冬薔薇の深紅の絨毯が眩しいほどだ。
その、冬薔薇が咲く四阿の前で、有弦は足を止め、音寧に向き直る。
「姉君のことで気落ちしているであろう貴女に気をつかわせたくなかったからなのだが……もっと早く伝えていればよかったかな」
結局苦しめてしまったね、と後悔しながら心底申し訳なさそうに有弦が口に出せば、首を横に振って音寧は言い返す。
「わたしの方こそ、自分を双子の姉の身代わりだと、そればかり気にかけていたから……それに、まだ、有弦さまにお話したいこと、しなければいけないことも、たくさんあります」
「――俺もだよ」
きゅっ、とつないだ手にちからを込められて、音寧は頬を薄紅色にほんのり染める。
手をつないだだけで天にも昇る気持ちになる自分に呆れながらも、音寧は彼の柔らかな声音を内耳に留めて、瞳を輝かせる。
そんな彼女の純粋な姿を前に、有弦も恥ずかしそうに微笑み返す。
そして、彼女の額にちゅっと口づけをする。
「……有弦さまっ!?」
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