1-15. 水底で待ってる。

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『ずいぶんご執心のようね、五代目』 「誰だ」  四阿のベンチで音寧を可愛がっていた有弦は、彼女が何度目かわからない絶頂とともに失神してしまったため、スカートのなかからずるりと吐精した分身を引き抜き、ふたりぶんの着衣の乱れを直していた。あとで一緒にお風呂に入るのも楽しそうだな、とほくそ笑んでいたところで、あの声がしたのだ。 『あたし? 過去の音寧の半神……とでも言えばいいかしら』 「確かにその声には、聞き覚えがあるが……俺のおとねではないな」 『まぁ! いっちょまえに俺の(・・)、ですって?』  声がした方向へ首を向ければ、そこには音寧が双子の姉の形見として大切にしている鏡がある。まさか、鏡から声がしているのか?  有弦が鏡を拾い上げて覗き込んでも、姿は見えない。けれども確かに声はこの鏡からしている。 「まさか綾音嬢なのか……?」 『そうよ?』  音寧と同じ声色のくせに、妙に婀娜っぽい、それでいて高慢な印象を与える彼女――震災で死んだはずの双子の姉、綾音。 「どういうことだ?」
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