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「違うのですか? 帝都の老舗豪商のご主人と身分が釣り合う女性など、この静岡牧埜原、桂木本家のお嬢様くらいしか思い浮かびませんのに……まぁ、サチお嬢様はまだ八つですから、お嫁に出すには早すぎると思いますが」
「――いるだろう、ここに」
「はい?」
きょとん、と首を傾げる姿を見て、有弦は硬直する。
愛らしい仕草を無邪気に見せる茶摘娘は、自分が花嫁に乞われていることに気づいていない。
思わず見入ってしまった有弦は慌てて顔を逸らし、ぽつりと呟く。
「有弦はこの春、時宮の姫君……きみの双子の姉上と婚儀を挙げる予定だったんだ」
「え」
どこか他人事のように明かされる彼の言葉を前に、音寧もようやく合点がいく。
彼は自分と瓜二つの双子の姉、綾音と結婚して家庭を築く予定だったのだ。
だというのに、彼女は彼を遺して逝ってしまった。
だから彼は、かつて時宮の双子令嬢と呼ばれ崇められていたもうひとりの妹である音寧を探し出し、花嫁にしようと桂木の家に掛け合ったのだ。死んだ姉のスペアとして。
――そして彼が目の前にいることが、養親のこたえ。
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