1-15. 水底で待ってる。

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『質問ばっかりね、資くん。こちらからも質問していいかしら? いまは大正何年の春? 五代目有弦を襲名して桂木の家からわざわざ音寧を花嫁に迎えたってことは、あたしと傑はそっちの世界で死んでいるってことよね?』 「いまは大正十四年の如月廿日(にがつはつか)だが……そっちの世界? 何を言っている?」 『あーやっぱり。音寧困ってるでしょ』 「何がだ」  音寧と異なり綾音は思いついたことや言いたいことをすぐさま口に乗せるらしい。妻が困ってる? どういうことだ? たしかに身代わりの花嫁だと気兼ねしていたようだが…… 『あの()、いまのままじゃ子ども産めないのよ……心を通わせてあなたたちが頑張っても。岩波山を繁栄させるための掟を守るには音寧にあたしのちからを返さないといけないの』 「は?」 『時宮の破魔のちからってのは特殊でね、あたしは生まれつき父親と同等のちからが扱えたんだけど、音寧は』 「やはり弱いのか? ちからがないことを気に病んでいるようだが」 『……』  寝言で聞いたことは黙って、有弦はムスっとした表情で言い返す。  綾音は言葉を遮られて黙り込むが、やがて『そうよ』と応える。
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