1-15. 水底で待ってる。

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『彼女は生まれつきちからがないわけじゃなかったの。生まれるときに死にそうだったあたしにちからを譲ってくれたの……言ったでしょう? 返す、って』 「返す」 『時宮の破魔のちからをもともと持っていたのは音寧の方なのに、父親は彼女を無能だと蔑んでいた。音寧も自分が生まれたときに破魔のちからを持っていたことなんか覚えてないわ、なんせちからの譲渡は母親の胎のなかで行われていたんですもの』  到底信じられるような話ではないが、現に何も映らない鏡が喋っている状況に陥っているのだ。しぶしぶ有弦は綾音の言葉を受け入れ、理解しようと試みる。 「だが、『返す』ってどうやって?」  およそ一年半前に震災で死んだはずの双子の姉が、どうやって音寧に破魔のちからを返却するというのか? 首を傾げる有弦に、綾音の苦笑混じりの声。 『いまあなたが手にしているその鏡……未来の音寧のもとにあるってことは、きっと形見の品になったのでしょうね。この鏡には不思議なちからがあるの。あたしが持っていたときはきちんと封印されていたんだけど、さんざんあなたたちが仲睦まじく子作りに励んでいたせいか封印が解けちゃったみたいで』
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