1-15. 水底で待ってる。

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「……はい?」 『傑のときも思ったけど、岩波家の男ってほんと野獣なんだなぁって』 「いやそれ関係ないだろ」 『うーん、因果関係はわからないけれどその鏡、精気を養分にしてちからを蓄えてるみたい。特に女悦……女性が達するときに出す精気、またの名を淫気をね。だからあなたたちの、主に音寧の身体から発せられた淫の気にたくさん触れていたから、何を思ったのか鏡の魔力がこっちに流れてきちゃって』 「こっち?」 『驚かないで聞いてね。実はあたし、過去から鏡であなたに声をかけているの』  いまさら驚くようなことではないよね、と顔が見えていたらきっと舌を出されていたのではないか、というくらい軽く発言した綾音を前に、有弦は硬直する。 「過去……?」 『正確にいえば、大正十二年の文月(しちがつ)。日本橋本町の岩波山であたしと傑が結納を行う前』  ――この鏡が未来を見せてくれたの。とうたうように綾音は有弦に説明する。  葉月朔日(はちがつついたち)。結納をして異母弟の元軍人、資に逢ったこと。  その一ヶ月後に震災が起きて自分と傑、彼の父親である四代目が死んだらしいこと。
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