1-15. 水底で待ってる。

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 たしかに、興味本位で綾音と異母兄の傑が熱心に身体を重ねていた姿を何度も盗み見していたのは事実だ。獣のような異母兄と、彼に身体をひらかれて悦楽に染まる美しい綾音の姿は神秘的で、衝撃的だった。あのとき有弦も資として彼女に筆下ろしされたものだと思っていたが……  考え込んでしまった有弦を前に、綾音は追い打ちをかけるように呟く。 『残念だけど。いまのままだと音寧は子を為せないわ』  さきほどよりも重たい口調に、有弦も押し黙る。淡い疑惑はあっさり消えて、耳が鏡から発する声を求めはじめる。 『それで……時宮の破魔のちからを音寧に返す方法だ、け、ど』  手元の鏡が明滅したのを見て、有弦は慌てだす。  綾音の声が聞こえにくくなっている。なぜだ? 『そろそろ時間切れみたいね……音寧が、起きちゃうと駄目なの、か……ふふっ』 「おい?」 『五代目、音寧に伝えて……あの夏の日、水底で待ってるって。それだけで、暗示が……』 「綾音嬢!?」  パキッ、という音とともに綾音の声が消える。手元の鏡にヒビが入ってしまったのかと焦る有弦だったが、鏡には傷一つついていない。
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