1-15. 水底で待ってる。

9/10
前へ
/608ページ
次へ
「あやねえさまと一緒に鬼ごっこしたときに蔵で見つけたこの鏡の名前、です。たしか両親がトキワドリだかトキワタリだか言っていたのでたぶん鳥にまつわる名称が正しいと思うのですが……あやねえさまはこの木枠に彫られた花がきれいだから鳥じゃなくて花の鏡って……だから間を取って花鳥の鏡って、わたしはこっそり呼んでいます」 「そういえば、百合と薔薇の花が彫られているが、鳥の姿はわからないな」 「時宮の蒐集録を辿れば、もうすこしいろいろなことがわかったのでしょうが……」  震災で時宮の家も壊滅し、蔵にあった蒐集物の多くも炎に焼かれてしまったという。黒ずんではいるものの、無事だったという鏡……その鏡が自分たち夫婦の精気を糧に、過去の綾音へと未来を見せた。きっと綾音は鏡が持つ不思議なちからが何かを知っていたのだろう、そうでなければあんなふうに有弦に話しかけることもなかったはずだ。 「どうなさいました? 有弦さま」 「――さっきまで、貴女の姉君と話をしていたと言ったら、信じるか?」  そして、音寧が眠っていた間に起きた不思議な出来事を有弦は伝える。
/608ページ

最初のコメントを投稿しよう!

253人が本棚に入れています
本棚に追加