1-16. 時翔る花嫁は初恋の君

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 もしかしたら傑はすでにそのことを知っていたのかもしれない。けれども綾音が“時を翔る”能力をつかうことはなかったのだ。暗示をかけあった半神である双子の妹がそこにいなかったから……待てよ? 過去の世界へ未来から妹の“時を翔る”能力が使えたのなら、その逆も可能なのでは? 傑がこのことを知ったら、音寧はもとの世界へ戻れなくなるのでは……?  難しそうに首を傾げる有弦を気にすることなく、鏡の向こうでは双子姉妹の会話がつづいている。 『音寧のことだから、資くんに何も話していなかったと思うんだけど』 『だ、だってあやねえさまが死んでしまった状態で“時を翔る”ことなんか二度とないと思っていたから……震災前に静岡から帝都に召喚される可能性は考えていたけど』 『音寧の方が、震災後にあたしを静岡へ召喚しようとしたじゃない』 『でもできなかった……無能なわたしはあやねえさまを救うことができなくて』  鏡の向こうで繰り拡げられる双子の会話を通して、有弦は納得する。  音寧が寝言で魘されていたときに見た夢は、このことだったのだと。
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