2-01. 真夏の朝の再会

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 武家屋敷然とした趣はかつてのままだが、音寧が静岡へ行ってから改築されたのか、内部は昔の面影を残しつつも西洋のつくりが反映されていた。裏口の扉の真上にある階段を足音を立てないようにのぼれば、すぐに綾音の部屋だ。畳敷きだった場所は板が敷かれており、可愛らしい木製の寝台が書物机とともに隅に設置されている。壁際の衣紋掛けには彼女が通っている女学校に着ていくのであろう海老茶袴が吊るされている。 「あやねえさま、女学校に通われていたのですね」 「いまは夏季休み中よ。それに、ここではあたしの方が若いんだからあやねえさま、って呼び方はおかしいわよ?」  くすくす笑いながら十八歳になったばかりの綾音が箪笥から薄荷色の着物を取り出し、音寧にひょい、と手渡す。冬物のワンピースでは場違いだからこれを着ろ、と言いたいらしい。 「で、でも」 「まあいいわ。いまはそれよりも、あたしの召喚に応えて時を翔るちからを使ってくれた音寧に、破魔のちからを返さないとね」 「そう簡単にできるものなの?」 「やり方自体はそれほど難しくない、けど」
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