2-02. 未来の夫と過去の顔

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   * * *  暦は大正十二年の文月を迎えたばかりだった。邸の外には朝陽を浴びて輝く朝顔の赤紫色の花が咲き乱れており、蔵から出た音寧はその鮮やかさに目を瞠る。  綾音と音寧の双子が生まれたのは水無月の最後の日、つまり目の前にいる双子の姉は十八歳を迎えてまだ幾日も経っていないということだ。  葉月の朔日には綾音と岩波山五代目となる四代目岩波有弦の息子、傑が結納を行うことになっている。ここでの五代目有弦は音寧が知る有弦ーー四代目有弦の庶子資ではないが、結納の席には資も同席することになるだろうと綾音は言っていた。  そしてその一月後に起こる、避けられない震災。  大正十二年の夏が終わるまでに、生前の綾音に召喚され時を翔た音寧は岩波山の未来を繋ぐためこの世界の夫――資と関係を持ち、破魔のちからを媒介させる精液を浴びなくてはいけないのだ。
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