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早朝の帝都は人出もまばらだ。和風建築のなかに時折交じるモルタル塗りの白壁、赤瓦葺で傾斜が急な屋根が特徴的な文化住宅を横目に、時宮の邸を出てから綾音の背中を追いかけつづけた音寧は急に足を止めた綾音の背中に自分の顔を当ててしまう。目の前には西洋の城のような白亜の建物が鎮座していた。建物を囲うかのように設えられた黒い柵には深緑色の植物の蔓がくるくると巻き付いている。正面を見れば立派な黒い門が半分だけ開いた状態になっていて、綾音はずかずかとそのなかへ入っていく。
「ちょっと、あやねえさま?」
「いらっしゃい。なかで彼が待っているわ」
「彼……って?」
もしかして、有弦――資がこの場所にいるとでもいうのだろうか。
けれども綾音は残念でしたと首を横に振って、ぽつりと呟く。
「あたしを盗んでくれたひと……岩波山の人間でも、資くんじゃなくて傑の方よ」
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