2-03. 協力者は花盗人

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   * * *  男は眼鏡をかけていた。シワひとつない灰色のスーツに、群青色の小洒落たネクタイをつけたその姿は、銀座や浅草を営業で闊歩している会社員のようにも見えるが、この洋装姿の男が江戸時代からつづく茶商岩波山の四代目倅だと紹介された音寧は「えっ」と二度見してしまう。 「異母弟(たすく)がお世話になっているようだね」 「岩波、傑さま……?」 「そうだよ。隠されていたもうひとりの時宮のお姫さま……まさかこんな形で逢えるとは思わなかったけど」 「そ、それは」  隠されたなんてそんな高尚なものではない、音寧は時宮の家の汚点でしかなかったというのに、目の前の彼は綾音の半神たる音寧を崇拝するかのように熱い視線を向けていた。眼鏡をしているから目立ちはしないが、榛色した瞳の異母弟よりも赤みがかった金に近い色をしている。人懐っこい印象を抱かせる色素の薄い双眸に射られて、音寧は困惑する。 「音寧、傑はあたしたちの異能の事情を知っているわ。時宮の女が人生で一度だけ“時を翔る”ちからを発動させられることも、男の精が魔法の媒介になることも、破魔のちからの本来の持ち主があたしじゃないことも……」
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