1-02. 時宮の双子令嬢

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 その後母が死んだのは漆黒の瞳を持つ綾音より色素が薄く不気味な青黒い虹彩を持つ音寧のせいだと父に糾弾され、使用人たちも音寧から距離をとるようになった。  かつては時宮の双子令嬢と呼ばれていた姉妹ははなればなれにされ、片割れは珠のように磨かれ、もう片方は食事すらろくに与えられず放置される事態が起こり、音寧は衰弱していった。  このままでは時宮の家に殺されてしまうと危惧したひとりの使用人が、親の介護で帝都を離れなくてはならないと邸を辞す際に、音寧を引き取りたいと申し出たことで、彼女は辛くも命拾いをする。  こうして音寧は静岡牧埜原(まきのはら)で茶農園を営む桂木一族の分家の娘「とね」となった。だが、戸籍は音寧のままだ。  音寧を厭った父に隠れて最後まで自分と仲良くしてくれた双子の姉に、別れの際「時宮の(かばね)を捨てるのは構わないけれどその名前だけは変えないで」と懇願されたから。 「……なのに、もう二度とお逢いすることが叶わないなんて」  生き別れになってもいつかまた再会するのだと誓いあったあの日から十年も経っていない。
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