2-04. 鏡越しの逢瀬

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「……明日から資さまが護衛につくそうです」 『やっぱりあのときの“姫”は、おとねのことだったんだね』 「だけど、彼にわたしの正体を知らせてはいけないと、あやねえさまが……」  未来から来た妻だと彼に伝えてはいけない――けれど、未来の夫を救うためには彼の精液が必要……そのことを鏡の向こうの夫に告げるのは、なぜだか憚られる気がして、音寧は黙り込んでしまう。 『そうだな。過去の俺は有弦じゃない、退役したばかりの役立たずな軍人だ』 「極秘任務に就かれていた軍人さんだったこと、あやねえさまからききましたよ」  どうして教えてくださらなかったのですか、と責められるような眼差しを受けて、有弦は申し訳なさそうにあたまをかく。 『いつか話そうとは思っていたさ。けれど物事には順序がある』 「……身代わりの花婿だったことを黙っていた前科もありますしね」 『それを言われると弱いな』  手厳しい妻の言葉にも嬉しそうに応じる有弦に、音寧も思わず笑ってしまう。  有弦がいる世界はまだ音寧がいなくなってから数時間しか経過していないらしい。時間の流れが違う、という綾音の言葉はほんとうのようだ。
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