2-04. 鏡越しの逢瀬

6/11
前へ
/608ページ
次へ
   * * *  あれから傑は日本橋本町の岩波山へ仕事に向かうため、名残惜しそうに綾音と音寧と別れ、迎賓館から姿を消した。傑は落ち着いたら資と一緒にお店にも遊びにおいで、と言ってくれた。震災ですべて消えてしまう未来を知っている音寧は複雑な気持ちになったが、笑顔で頷いた。  傑を見送ってから迎賓館の管理人夫婦に挨拶した後、朝食を食堂でいただいた音寧は自分が滞在する部屋を綾音に案内してもらった。  そこは螺旋階段をあがった先にある三階の角部屋。  ふだんは身分の高い賓客をもてなすための特別室として用意されている豪華な部屋だ。  おおきな観音開きの扉の向こうに見えたのは千夜一夜物語を彷彿させるような異国情緒ある天蓋つきの寝台だった。これまたひとが三人くらい眠れそうなおおきさの寝台で、音寧ひとりが眠るために使うにはもったいないほどの広さがある。
/608ページ

最初のコメントを投稿しよう!

253人が本棚に入れています
本棚に追加