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きゃあきゃあ言いながら衣装部屋の服を吟味したり、迎賓館内部を双子の姉と探検したりしているうちに時間はあっという間に経過し、夕刻、綾音はトキワタリの鏡を音寧に預けて時宮邸へと戻っていった。
「――やっぱりあやねえさまは、すごいです」
傑と綾音、ふたりは双子の妹へ破魔のちからを返しやすくするための舞台を一日で整えてくれた。けれどそのことを未来の夫へ伝える必要はないと綾音はきっぱり言い切った。とはいえ、明日から資が音寧の傍につくことになるからいまのうちに未来の夫と連絡を取った方がいいだろうと鏡を手渡された。未来のトキワタリの鏡の持ち主である音寧なら、呼びかけひとつで向こうを映すことができるから、と。
呼びかければこたえてくれる、淫らな精気を糧にする不思議な鏡を自分に向ければ、青みがかった黒目が自信なさそうに揺らいでいる。ほんとうに、彼は鏡の向こうで応じてくれる?
「有弦さま……」
『――おとね、か?』
呼びかけとほぼ同時に、鏡の向こうから愛しい夫の声が届く。
けれども、榛色の瞳に見つめられた瞬間に、鏡は曇ってしまった。
声は届くのに、姿が見えない。
姿を彼に見せるためには、音寧の淫の気を鏡に吸わせなくてはいけない。
だから音寧は彼に求められるがまま、はじめての自慰をして――……
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