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『あの男は、軍を裏切って綾音嬢を盗み出し、既成事実を作って時宮の父君から婚約をもぎ取った。ご丁寧に時宮と軍の人間を黙らせる金まで用意してね。彼は綾音嬢を愛していると囁いているしそれに嘘偽りはないけど、その一方で破魔のちからで岩波山の呪いを封じ込むことに執着している。そんな彼があと数カ月で死ぬ未来を綾音嬢に告げられて、彼女が未来の有弦のために破魔のちからを捨てると知って素直に協力するとは思えないんだよな……』
「えっ」
『けど、心配しないで。何があっても起こっても、明日から護衛に就く資が必ず貴女をまもるから』
明日の朝から有弦――資が音寧の護衛にやって来る。音寧は彼の前で“姫”になる。
未来の夫はこれから音寧が過去の自分の初恋になることを知っている。けれど、いまの音寧は破魔のちからを持っていない。時を翔るちからで時空の歪みを但し、破魔のちからを取り戻すことで、きっと未来は薔薇色になる。
「……はい、有弦さま」
――こうして、夜が深まるまで鏡越しの逢瀬をした音寧は鏡を胸元に抱き寄せたまま、ふかふかの寝台で穏やかな眠りに落ちるのだった。
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