2-05. 岩波資という名の男

3/12
前へ
/608ページ
次へ
 書類上は帝国第参陸軍からの退役扱いとなっているものの、帝国陸軍の上層部は彼のことを退役ではなく目の怪我による療養中だとして手放そうとしないため、なぜか特殊呪術部隊の助っ人として呼び出されてしまった。強引な命令を不思議に思っていたら、洋装姿の異母兄に「俺が金で指名した」とおそろしい種明かしをされてしまう。  自分は怪我人であると傑に言っても、「異能を御せる人手が少ないのだから手伝え、令嬢の護衛だからたいした問題はない、それとも今のお前は左目が見えないだけでか弱い少女を護ることすらできない意気地無しなのか? 軍部の人間もほかの奴だとアヤマチをおかされかねないと言っている。堅物な資が適任だと判断したのだからありがたかく任務を遂行しろ!」というしっちゃかめっちゃかな理屈を捲し立てられ、結局彼らの言いなりになるしかなかった。さりげなく貶されているような気がしないでもないが、それだけ自分を信頼してくれているのだろう、たぶん。  帝国陸軍特殊呪術部隊所属少尉岩波資――司令・麹町迎賓館にて異能持ちの令嬢“姫”を護衛せよ。  その異能持ちの令嬢が、未来からやって来た自分の妻であることなど、知るよしもない。
/608ページ

最初のコメントを投稿しよう!

253人が本棚に入れています
本棚に追加