2-05. 岩波資という名の男

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 先の任務で左目を負傷し、失明同然の自分がこれ以上部隊に迷惑をかけることはできないと退役願いを出したのがほんの一ヶ月前、水無月のころである。  第参陸軍からの退役はひとまず認められたものの、所属していた特殊呪術部隊からは渋い顔をされ、せめて後継が見つかるまでは部隊名簿に名前を残し、日本橋本町の実家に戻らず青山の宿舎で怪我の療養を行っていろと頼まれて頷いてしまったのが運のつき。  こうして見ず知らずの異能持ちの令嬢の護衛に向かう羽目に陥ってしまったのだが…… 「失礼いたします」 「――資さま?」 「な……綾音嬢!?」  第二鹿鳴館の応接間で出逢った、護衛対象の少女は、異母兄が盗んだ時宮の姫君と瓜二つの美少女だった。  ――異母兄上、謀ったのか!?  堅物なお前なら信頼できると強引な形で軍部から命じられ、第二鹿鳴館に来るよう要請された資は綾音とそっくりな容貌で首を傾げる少女を前に、硬直する。 「はじめまして(・・・・・・)
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