2-05. 岩波資という名の男

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 鈴の鳴るような涼やかな声が、資の内耳をくすぐる。どこか懐かしさを感じるのは、かつて密偵として時宮の姫君を監視していたからなのか。けれど、綾音と違い、彼女はどこか、ふれると今にも消えてしまいそうな儚い印象がある。  はじめまして、という言葉に違和感を感じつつも、資は頷き、同じ言葉を返していた。 「はじめまして。本日から貴女さまの護衛を命じらた帝国陸軍特殊呪術部隊少尉、岩波資と申します」 「あ、わたしは……」  音寧もまた、軍服姿の資を前に声を震わせていた。  ――有弦さまはほんとうに軍人さんだったんだ、でも、どうして黒い眼帯などつけているのだろう。  思わず目の前の彼にときめいてしまった音寧は、たどたどしく綾音に言われた偽りの名を口にする。 「ひめ、とお呼びください」 「――姫。時宮の綾音嬢とはどういったご関係で?」  尋問口調の資に鼓動が跳ねる。深く追求しないで欲しいと思いながら、音寧は嘘を重ねていく。 「遠い親戚です。あやね、さんとはよく似ていると言われますし、それがきっかけで仲良くなりました。今回の帝都行きも、本来なら時宮邸の厄介になる予定だったのですが……」
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