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ぽつりぽつりと言葉を紡げば、ふうん、と資が興味なさそうに首を縦に振る。
「綾音嬢の父君は貴女のことを良く思っていない?」
「――なぜ、そのように」
「彼は破魔の異能持ちゆえに、造形の似通ったものを忌み嫌っている。双子のようにそっくりな貴女が溺愛する綾音嬢の傍にいたら発狂しかねない」
発狂まではしないだろうが、資の指摘は正しい。この世界に存在しているはずのない未来から来た音寧の存在を異能持ちの彼が識ったら、音寧を殺して自分が未来で生き延びることを選ぶだろう。綾音はそのことも恐れてこの麹町迎賓館に音寧を匿ったのだ、異能持ちの令嬢とだけ軍に説明して。
資が何気なく口にした双子のように、という言葉に驚きつつも、音寧は表情を殺して彼に話のつづきを促す。
「……俺は、綾音嬢が十六歳のときに半年だけ時宮邸に雇われていた。いや、二重密偵だから雇われるふりをしていたとでも言えばいいのか……軍からの命令を受けて、時宮綾音の監視をしていた」
「護衛ではなく、監視?」
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