2-05. 岩波資という名の男

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「綾音嬢が父君の補助なしで破魔のちからを自分で振るえるようになったのは初潮が訪れた十五歳の頃からだ。それまでは父君によって制御されていたちからをひとりで扱うため、軍による指導を受けた……ここまでは理解できるか」 「ええ」 「“精力”を高め、うちに秘めた破魔のちからをつかわせることで、軍は生み出される利益を貪ろうとしていた……いや、貪っていた」  眼帯をしていない右側の、榛色の瞳を眇めながら、嘲るように資は呟く。 「綾音嬢が持つちからの力量は父君の倍以上だった。彼が警戒して軍に助言を求めたのもきっと、自分ひとりでは彼女の暴走を止められないと判断したからだろう。そのことを知った軍はここぞとばかりに破魔のちからで魔物を討たせたり、瘴気を浄化させたり、実験にも似た訓練を施した。彼女は一年足らずでそのちからを自分で制することができるようになった。けれど軍は彼女のことをもはや解放できなくなっていた。上層部は精液を与えることでちからを発揮できる都合のいい兵器のように思っていた。それ相応の男を娶らせて、どうにかして軍とのつながりを保たせたいと、俺に司令が下った」 「それが、監視……」
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