2-05. 岩波資という名の男

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 資の独白に衝撃を受けていた音寧だが、これだけはきっぱり応えなくてはと顔をあげて、彼に告げる。 「――この夏のあいだ、お世話になります」  この夏が終わるまでに、彼と懇意になって、精液を与えてもらわなくては。  そう心のなかで決意する音寧を、隻眼の資が楽しそうに見つめ返す。  綾音にそっくりな、それでいてどこか儚げな彼女を、資も悪くは思わなかったらしい。くすりと笑ってから、恭しく跪いて。 「わかった。ひと夏の間、よろしく――姫」  あの、茶畑で跪いて求婚してきたときのように、騎士然とした姿で、音寧を魅了したのだった。
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