2-07. 淫魔に魅入られた姫君

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 資がその気配に気づいたのは、彼女の護衛についた翌日の夜のことだった。  つい先日まで軍内で悪しきモノとの戦いや異能絡みの事件に関わっていた資にとって馴染みのある……それでいて厄介な、“精気”や“淫”の気配が、扉の向こうから漂ってきたのだ。  ――綾音嬢が破魔のちからをつかうときの気配に似ている?  綾音が連れてきた姫という名の女性もまた、異能持ちであるとは聞いていたが、彼女同様に“精気”が必要なのだろうか。だが、部屋には彼女がひとりだけ。魔法をつかうための媒介となる精液がない状態で、これだけの“精気”を放出させるのは異常じゃなかろうか。  扉の向こうで耳を峙てれば、はぁ、はぁと苦しそうな息遣いが聞こえてくる。  夏の暑さで魘されているようにも思えるが、それだけではない仄かな甘い声が、資を不安にさせる。  彼女が眠る夢のなかに魔物が侵入してきたのだろうか。異能を持つ人間は魔に魅入られる者が多いから……そうだとしたら撃退しなくてはならない。 「――姫!?」  意を決して扉を開いた資が目のあたりにした光景は。
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