2-07. 淫魔に魅入られた姫君

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「何を言っている。このまま貴女の傍においておいたら、“精気”を搾り取られて大変なことになっていたかもしれないんだ。たとえ異能持ちだからといえども侮ってはいけない……姫、無事でよかった」 「――資さま」  どうしよう、鏡の向こうにいるのは淫魔なんかじゃない、未来の彼方だなんて言えるわけがない……わたしをいやらしい気持ちにさせているのは夫である有弦さまなのに、と心のなかで不貞腐れながらも、心配して鏡を取り上げた資の前ではこれ以上醜態を見せられないと観念して、音寧は申し訳なさそうに応える。 「わかりました……資さまの手で、あやねさんに返してください。ご心配、おかけしました」 「あ……ああ」  音寧の媚態を前にしたというのに、資の表情は固いままだ。淫魔に魅入られるとはなんとはしたない姫君かと幻滅されてしまったのだろうか。  音寧の不安そうな表情を見た資は、彼女が憂えていたことなど微塵も想像しておらず、逆に自分が彼女を怯えさせてしまったのだろうと慌てて首を振り、彼女を安心させるべく、言葉を繋げる。 「ひどい汗だな……風呂の用意をしよう」 「え?」
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