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三代目有弦、いまはご隠居と呼ばれる岩波山の長老はそれだけ命じて、資を邸の外へ放つ。
この時点で悪い予感はしていた。
西ヶ原の別邸を出てすぐに、避難民の群れを目撃したからだ。この地には古河財閥が莫大な費用をかけて建設した北欧風の洋館と果てしない広さを持つ美しい西洋風庭園と日本庭園があるのだ。話をきけば、震災で被災した民のために庭園開放と食糧の提供を行っているのだとか。
岩波の別邸も洋風建築だが、古河邸と比べれば月とすっぽん、使用人もわずかだったため、避難民を受け入れる余裕はなかった。親族の安否を確認するのですら手一杯なのだから仕方がないことだろう。
悲惨な状況は黒煙とともに明かされていく。
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