2-09. 芽生えた想いと躊躇いの間

2/11
前へ
/608ページ
次へ
 資に淫魔に魅入られていると勘違いされ、禊によって身体を暴かれ、そのまま意識を失ってしまった音寧は、翌日、自分が何事もなかったかのように寝台の上で眠っていたことに呆然としていた。 「……夢?」  けれど昨晩身につけていたはずの紫陽花色の夜着ではない、タオル地のガウンを素肌の上から纏っているだけの心もとない格好に気づき、愕然とする。  ――夢じゃ、ない。  寝台の上に転がっているはずの、トキワタリの鏡がない。やはり資が取り上げたのは真実で、音寧の身体にふれて絶頂に追いやったのも現実に起きたことなのだ。淫魔がどうのこうのと誤解していたが、そもそも淫魔に魅入られてなどいない音寧から魔を払うことなど、できるわけがない。  けれど資はトキワタリの鏡が淫の気を求めていたことに気づいていた。元の世界の有弦は鏡を使って音寧を攻めたことがあったけど、淫の気配や精力がどうのこうのと口にしたことはなかった。ただ、異能についての知識はあったから、黙っていただけの可能性はある。  それに……左目の黒い眼帯。
/608ページ

最初のコメントを投稿しよう!

256人が本棚に入れています
本棚に追加