2-09. 芽生えた想いと躊躇いの間

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 同一人物のはずなのに、有弦を襲名して音寧の夫となる前の資の姿は、ちぐはぐな印象を受ける。守秘義務に携わる特殊な部隊に所属していた軍人だったのが事実だったとはいえ、軍を退役せざるを得ない負傷とは何だったのだろう。  ――こんな状況で、資さまから精をいただけるのでしょうか……  ゆっくりと起き上がり、衣装部屋までとぼとぼ歩いた音寧は、綾音が選んでくれた明るい空色の着物を手に取り、そそくさと着替えていく。  等身大の姿見に映る自分の身体をちらりと見れば、ガウンの胸の谷間に赤い斑点がちらほらのぞく。これは過去に渡る前に、夫の有弦が自分に刻んだ愛の証。だけど資は淫魔に魅入られた証だと言って、音寧を糾弾した。  部屋に漂うかすかな水の匂いも昨晩の禊の名残を彷彿させる。これも任務だと資は無表情で音寧の身体へ快楽の上書きを試みたけれど、最後まですることなく気を失って眠ってしまったことを考えると、この先も似たような状況に陥る可能性は高い。いっそのこと淫魔に魅入られたふりをして一線を越えた方がいいのだろうかと考えるも、そうなると軍が介入してきて更に厄介なことになりそうだ。
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