2-09. 芽生えた想いと躊躇いの間

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「怯えさせてしまってすまない。綾音嬢は時宮の家の事情はもとより、姫が魔物に狙われるのを危惧してこの場所を選んだはずだ。そうでなければ俺が指名されることもなかっただろう……なに、いま帝都を騒がせている魔物の正体を軍は掴んでいる、退治するのも時間の問題だ。貴女が心配するようなことはないよ」 「はあ」 「それに。俺が任務で対峙してきた悪しきモノと比べたら貴女のそれは弱い。淫気を求めて疼くことはあるだろうが、すぐに身体を蝕まれるようなことはないだろう」  そして、瞳を曇らせる音寧の前で、資は提案する。 「貴女に想い人がいることは知っている。それが叶わぬ恋であろうことも」  昨晩の淫らな行為で救いを求めるように「有弦さま」と口にしていたことを、音寧は覚えていない。けれど、資はそれをしっかり覚えている。 「俺がひと夏のあいだ、貴女の想い人に代わり、淫魔に苦しむ貴女を慰める」  だからどうか、俺に貴女をまもらせてくれと呟かれ、音寧は瞳を潤ませる。
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