2-10. 未熟で甘やかな契約

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 資から「自分は童貞である」と宣言されてしまった音寧は、思いがけない彼の言葉に凍りついていた。 「経験が、なかったのですか?」 「何度も言わせないでほしい……」  まるで捨てられた仔犬のような表情で呟く資を前に、音寧は思わず笑ってしまう。過去の夫が女性と関係を持っていようがいまいが気にしないように勤めていたのに、彼の方から暴露してくるとは……  そういえば、過去に一度だけ綾音ではない姫という名の女性と関係した、それがどうやら音寧であるという話は過去へ翔ぶ前に有弦が口にしていたはずだ。あの夜は彼にさんざん啼かされて詳しい話を訊くことも叶わなかったけれど。  夫となる未来の彼に処女を散らされた自分が、実は過去の資の筆おろしを行っていたという摩訶不思議な状況が、時空の歪みによって起きていたのはどうやら歴史を変えることのできない事象のひとつなのだろう……そのことに気づいた音寧はようやく納得して資に告げる。 「わたしがいやらしいおねだりをしたら、淫魔に代わって、資さまが叶えてくださるのですね」 「……努力する」
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