2-10. 未熟で甘やかな契約

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「でしたら、淫魔がもたらす快楽を上書きして、わたしのなかの異能を解放するお手伝いをしていただけますか……?」  上目遣いで榛色の右目を見つめ、音寧は懇願する。  彼に見せつけるように、自分で締めていた帯をゆっくりほどきながら。  未熟だと言いながら、一生懸命自分と向き合おうとしている過去の夫は目の前の自分を魔に犯された淫らな女だと嫌悪するかもしれない。それでも、口にせずにはいられなかった。  はらりと、緑青色の帯が床に落ち、着物が、はだける。 「いま、ここで。わたしを、抱いていただけますか?」  ――誘惑して精を搾り取りなさい。  双子の姉の囁く声が、音寧の脳裡にこだまする。  女を知らない彼を、自分の手で、男に導いてしまえ……と。
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