2-10. 未熟で甘やかな契約

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「貴女は美しい。親父が貴女に夢中になったのも理解できる。たとえそれが淫魔に魅入られたがための行為だったとしても……けれどもいまの貴女からは魔の気配を感じない。ならばなぜ、俺に取り入ろうとする? 親父のことを想っているんだろう?」 「あんっ……親父、さま?」 「昨晩、貴女が達した際に呼んだのは、有弦……親父の名前だ。岩波山の主のみが名乗ることを許されるその名を、なぜ愛しそうに貴女が口にする?」 「違……っ、それは」 「あの男こそ岩波山の呪いを体現したような忌まわしい男だ。ふたりの妻を亡くしてからは吉原通いに溺れて商売を傾かせて三代目を困らせている。傑が時宮の姫君を娶ると決めたことにも最後まで反対していた……それは貴女があの男と関係していたから、なんだろ」 「ゆ……た、資さま?」 「傑に確認したかったが、貴女に身体で訊いた方が早そうだ……年老いた男の相手に比べれば、初物の俺は食べごたえがあるみたいだし、な」 「きゃあっ!」  そのまま軽々と抱き上げられて、寝台の上へと転がされる。彼にのしかかられ、身動きが取れない。このまま音寧を強引に抱こうとでもいうのだろうか。
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