2-10. 未熟で甘やかな契約

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 傷ついた獣のような瞳を前に、音寧は何も言えなくなる。  ――有弦さまは自分の父親がわたしの想い人だと誤解している?  たしかにトキワタリの鏡の前で自慰をした際に夫に向けて「有弦さま」と求めた記憶がある。あのときの呼び声を資は耳にしていて、それで音寧と四代目有弦が肉体関係にあると勘違いした……? 「違うんです!」 「そこまでして親父を庇うのはなぜだ。淫魔に魅入られたのは、あの男の呪いにふれたからだろう?」 「そ、それは」  音寧が岩波山の呪いにふれたのは事実だが、その相手はいまの有弦ではない、未来の有弦である。  けれどもそれは、目の前の彼に知らせてはいけないことだ。この世界で未来の有弦と口走ったら、次の代の有弦を襲名する予定になっている傑を示してしまうから。  ふぃ、と顔をそむければ資がチッと舌打ちをする。資もまた、自分が護衛対象の彼女を寝台に押し倒した現実に我に却ったのか、慌てて身体を離す。  え、と驚く音寧に、資がつまらなそうに言葉を放つ。
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