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「こんなことをしておいて今更だが……俺は貴女を傷つけたくない。俺の怒りを貴女の身体で鎮めるなどもってのほか。慰めたい気持ちは本当だが、いまの俺は未熟だから……」
「資さま」
「姫。投げやりな態度で俺を試すのはやめてください。危うく襲うところだった……」
ふう、とため息をつきながら資が敷布を音寧の裸体へ巻きつける。抱いてほしいという願いを受け入れるつもりはないのだろう。窘めるように音寧の胸にふれただけで、口づけも何もしてくれない。
わかっていた。資は姫のひと夏の護衛として音寧の傍にいるだけ。淫魔の気配がしない彼女に「抱いて」と求められたとしてもそれは任務の範囲外。おまけに自分の父親と関係を持っていると誤解されてしまった。彼が憤った理由はきっとそこにあるのだろう。
「……ごめんなさい」
しょんぼりした音寧を見て、俺もすまなかったと資が悲しそうに言葉をこぼす。彼女を救いたい想いと、父親に対する嫉妬と、誰にも渡したくない独占欲と、それでもふれたいという欲望に蓋をして、資はせいいっぱいの譲歩をする。
「それでは、契約をしようか」
「え」
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