2-11. 初恋の自覚と口づけの練習

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「俺はどうやら、貴女に恋したみたいだ」  資の言葉に圧倒された音寧は、真摯な彼の瞳を凝視することしかできずにいた。  自分から身体だけの関係は求めない。  ほしいのは、貴女の心もだと、偽りの名を口に乗せて資は断言する。 「姫――俺は貴女を囚えている想い人への恋心を奪いたい。叶わぬ恋に溺れ淫魔に魅入られ苦しむ貴女を、ひと夏の間に寝取って俺のものにする」  資が言っていることは支離滅裂だ。未来の夫となる彼が嫁の気持ちを奪う、ましてや未来の自分を過去の自分が寝取るなど、同一人物なのだからできるわけがない。音寧の気持ちは資――有弦ただひとりにずっと傾いたままだというのに。 「そんな、困ります」 「自信がないのか? それなら、淫魔のことを軍に報告するしかないな」 「なっ」  それは契約というより脅しではないかと顔色を変える音寧に、資が楽しそうに首を振る。 「怒った姫の顔も愛らしくてそそるものがあるな。ひと夏と言わずずっと貴女の傍にいたい……三日前に貴女と出逢ったときから、その想いは密かに芽生えていた」
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