2-11. 初恋の自覚と口づけの練習

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 任務で時宮家の姫君を監視していたときには感じなかった、胸を焦がす想い。彼女はきっと自分にとって大切な宝物だ。そう痛感したのは昨晩の夜の出来事が決定打。自分ではない男の名を求めながら自慰をする美しい花。魔に犯されながらも穢れを感じさせない清らかでありながら艶やかな女性。これ以上ほかの男に彼女を好きにさせたくないという幼稚な欲望から自覚した恋。  彼女を捕まえるため、資は卑怯な選択を迫る。  有弦の名などこれ以上口にせず、資に心と身体を委ねろと。 「本気で、有弦さまからわたしを寝取るつもりですか……?」 「その可憐な唇で忌まわしい男の名を呼ぶんじゃない」 「っ!?」  押し殺した怒りとともに唇を塞がれて、音寧は瞳を見開く。唇同士が重なるだけの他愛もない口づけなのに、なぜか心を揺さぶられてしまう。まるで資の決意をぶつけられたみたいだ。  有弦の名前をこんなにも厭っているなんて、やはり彼は父親とそりが合わないのだろう、音寧は観念したように瞳を閉じ、彼の口づけを黙って受け入れる。  ――不器用だけど、やっぱり資さまは有弦さまなんだ。
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