1-03. 岩波山の五代目有弦

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 気がつけば震災から半年以上が経過していた。皇太子殿下が一月に婚儀を行ったり、いちはやく銀座が百貨店の営業を再開させるなどの吉報もちらほら入ってきてはいるものの、未だに帝都のあちこちに傷痕を残している死体置き場の炎は完全に消えていない。  岩波山の仮店舗から見える空も、遺体を焼く際の煙のせいなのか、どことなく黒ずんでいる気がする。やがてこの弔いの炎と煙も消えるのだろうなと漠然と思いながら、資は日々を無為に過ごしていた。  そんな折に、三代目有弦から資は命じられたのだ。老舗茶商として名を改め、然るべき嫁を娶ることを。  これからはお前が有弦を襲名し、五代目として岩波山を引き継ぎ、時宮の姫君との縁を繋ぎ止めるのだ、と。 「四代目……お前の父親も傑も、もはや生きているとは思えぬ。儂もいつくたばるかわからない、ならばお前が五代目を襲名するしかない。傑と時宮の姫君との縁談もお前が引き継げば問題なかろう」 「ですが」
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