2-11. 初恋の自覚と口づけの練習

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 かさついた彼の唇が自分のそれに重なっているだけだというのに、過去に翔んでから一度もふれられていなかったから、それだけで官能への扉がひらけてしまう。ましてやいまの音寧は敷布一枚身体に巻きつけただけの無防備な姿。契約という名の愛の告白を過去の夫に持ちかけられた心は揺らぎ、もっとこの接吻より先にある刺激を求めている。  彼の言う契約内容は無茶苦茶だ。けれども拒んだら軍を巻き込んでしまう。それならば資とこの未熟で甘やかな契約を進めた方が良いに違いない。  未来の夫を愛する嫁を、過去の夫が身も心も奪おうと必死になっている。この口づけだってその気持ちの現れの一つ。ならば自分も応えよう。女性を――愛する妻を満足させられるだけの夫に育てるため。  ――このまま舌を差し込んで、唾液を絡ませたら、彼方は応えてくれますか……?  言葉より早く、音寧は資の唇を己の舌先でこじ開けて一息に口腔へと攻め込んでいく。両の手で彼のあたまを抱え込んで、逃さないように。
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