2-11. 初恋の自覚と口づけの練習

10/13
前へ
/608ページ
次へ
 おまけに資は音寧が自慰の際に口走った「有弦さま」をこの世界にいる四代目有弦だと勘違いしてしまった。呪いを体現している父親に嫉妬し、淫魔に身体を貪られている異能持ちの姫君を自分が救いたいと、彼はこの秘密を軍に漏らさないという条件をつけて音寧に契約を提案した。彼女からすれば脅しに近いものだけど、それでも自分の目的を遂行する為には理にかなったものだからと、半ば絆される形で頷いたのだ。  姫と愛おしそうに名を呼んで音寧の身と心を欲する資は、音寧のなかに巣食う狂おしい官能が五代目岩波有弦に抱かれつづけたことで生じたことを知る由もなく、淫魔の仕業だと断罪し、それを救済すべく自分がさらなる快感の上書きで魔を退治しようとしている。そのために身体を繋げるのも時間の問題だ。  けれど。  音寧は複雑な心境を綾音に伝えるべきか否か、逡巡する。  漆黒の瞳で自分を見つめる綾音は、穏やかな表情を浮かべている。きっと、音寧が何を考えているかなど、丸わかりなのだろう。 「まだ、口づけの練習をはじめたばかり、なんです……」
/608ページ

最初のコメントを投稿しよう!

256人が本棚に入れています
本棚に追加