1-03. 岩波山の五代目有弦

8/10
前へ
/608ページ
次へ
 夏の結納で顔を合わせた際、五代目有弦となる予定だった岩波傑の花嫁に決まった時宮綾音を資も見ている。ふたりはお似合いの恋人同士のように思えた。そこへ自分が傑の身代わりとして花婿におさまる? いくら非常時だからとはいえ、とんでもないと資は祖父を睨みつける。  すると、祖父は困惑した表情で資に告げる。 「だがな、向こうの家も大変なことになっているみたいでなぁ。麹町の時宮邸も震災の影響で倒壊し燃えてしまって肝心の綾音嬢も亡くなってしまったとか」 「え。亡くなられたのですか?」  ――あの、百合のように美しかった異母兄の花嫁も、震災によって命の花を散らしたというのか……!?  資の心のなかの動揺に気づいているのか、惜しいことをしたのうと祖父は悔しがっている。  けれど、それならば時宮の姫君との縁を繋ぎ止めることなど不可能ではなかろうか。  傑と綾音が日本橋本町の店舗にて祝言を挙げる際に、彼は五代目有弦を襲名することになっていたのだ。  傑の代わりに資が五代目有弦になるには、添い遂げるための証人……花嫁が必要になる。
/608ページ

最初のコメントを投稿しよう!

248人が本棚に入れています
本棚に追加