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ゆっくりと身体を抱き寄せ、唇を重ねてくる女性の真似をするように、資はぎこちなく唇を彼女のそれへ近づけていく。あの日から毎日、口づけの練習と称して資は朝に夜に、彼女が気持ちよくなれるよう角度を変えたり歯列の裏まで舌を這わせてみたり、涙ぐましい努力で音寧を翻弄させている。その成果は、一週間も経過しないうちに現れはじめていた。
「……んっ、資さま」
「姫。今宵の口づけはいかがかな? 舌を噛むことも減ってきたと思うのだが」
「そ、そうですね……」
彼女が口にした有弦という名に怒りを覚え、突発的に口を塞いだのが資にとってのはじめての口づけだった。恋しいひとは恥ずかしがることも嫌がることもせず、ただ資がしたいように受け止めてくれた。まさかそのまま舌を入れられるとは思いもせず。
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