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忠犬のような資が風呂上がりの音寧の手の甲へ接吻することで、彼が一方的に結ばせた契約の時間がはじまる。口づけの練習。ふたり立ち上がった状態で身体を密着させ、音寧が顔を近づけると許しを得たかのように資も顔を寄せてくる。風呂上がりの艷やかな唇を堪能する資は、音寧の反応を観察しながら舌をつかいはじめる。先程のような啄む接吻で彼女を驚かせるときもあるし、じっくり時間をかけて舌先で歯列を舐めまわし唾液を混ぜ合わせるときもある。
それでもまだ、口づけだけ。
今夜音寧が素肌の上に身につけている夜着は乳白色の絹でできた柔らかいものだ。結婚してから西ヶ原の洋館で着せられていた夜着に近く、胸元や足元にはかすみ草のようなちいさな花の刺繍がレエスとともに縫いつけられている。
資に密着され、口づけを受けているうちに、腰が震えてきてしまう。接吻だけで達したことなど今までなかったはずなのに。いつの間に、彼の口づけにこんなにも酔わされるようになってしまったのだろう……
「姫? 目がとろんとしているが、もう眠いのか?」
「……資さまの口づけがお上手だから、腰が砕けてしまいそうなのです」
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